本コラムの内容
工場の安定稼働に欠かせない、回転機械の「状態監視」と「予防保全」。その代表的なアプローチとして昔から広く用いられているのが振動診断ですが、近年、配電盤から安全に計測できる電流診断(MCSA)が大きな注目を集めています。
「うちの設備にはどちらが合っているのか?」「振動計が付けられない場所はどうすればいいのか?」と悩む保全担当者の方に向けて、本記事では振動診断と電流診断の仕組み、それぞれのメリット・デメリット、そして現場の課題に合わせた最適な使い分けを比較解説します。
振動診断の特徴とメリット・デメリット
振動診断は、モータやポンプなどの機械表面にセンサを直接取り付け、機械が発する「揺れ(振動)」の波形や周波数を解析して異常を検知する手法です。
振動診断のメリット
- 実績が豊富: 古くから普及しているため、診断のノウハウや基準値(JIS規格など)が広く確立されています。
- 高回転域の異常に強い: 高速で回転するベアリングの傷や、歯車の欠けなど、物理的な衝撃を伴う異常や故障部位の特定に優れています。
振動診断のデメリット
- センサーの設置や管理のハードル: 機械に直接センサを取り付ける必要があるため、高所、水中、高温環境、防爆エリアなどでは設置が困難、あるいは多大な足場代などのコストがかかります。また電池交換やセンサの劣化など管理面での手間がかかることもあります。
- 外部ノイズの影響を受けやすい: 隣接する別の機械の振動を拾ってしまい、正確な診断が難しくなるケースがあります。
- 低速回転機・インバータ駆動機不向き: 回転が遅い機械(攪拌機やロール機など)は振動のエネルギーが小さく、異常の兆候を捉えにくいという弱点があります。また、インバータ駆動機は回転数の変動により、解析の基準となる周波数の設定や参照する周波数の特定が難しいという課題があります。
電流診断(MCSA)の特徴とメリット・デメリット
電流診断は、機械を駆動するモータの「電流信号」を配電盤側で計測・解析する手法です。モータにかかる負荷やトルクの変動が、電流波形の微小な乱れとして現れる原理を利用します。
電流診断の基礎理論・原理などについては技術コラム「診断の原理」で紹介しております
電流診断のメリット
- 安全かつ容易な後付け設置: 現場の機械に近づく必要がなく、離れた配電盤内にクランプ式のセンサを取り付けるだけで計測が完了します。危険エリアやアクセス困難な場所の設備監視に最適です。
- 低速回転機・インバータ駆動機にも対応: 振動では捉えにくい低速回転のロール機や攪拌機、変速機構を持つ設備でも、電流情報から高精度に異常を検知できます。(電流情報から回転数の情報も得られるため、変動を考慮した解析を行うことができます)
- 電気的・機械的な異常を網羅: 一つのセンサでモータ自身の異常(回転子のバー破断など)から、負荷側(ポンプのキャビテーションやファンへの付着など)の異常まで幅広くカバーします。
電流診断のデメリット
- 軸受の異常が苦手:振動診断に比べると感度で劣り、初期傷などの段階では変化が見られません。(フレーキングの段階やフレッチングなどのモータ軸へ影響がある場合は電流診断でも検知することができます)
- 故障部位の特定に限界がある: 一つのセンサでモータの駆動電流信号を測るのみで良いという点がメリットでもありますが、信号の特徴によっては周波数解析でも故障部位を特定できない場合があります。
【一覧表】振動診断と電流診断の比較
| 比較項目 | 振動診断 | 電流診断(MCSA) |
|---|---|---|
| センサの取付 | 機械の表面(直接取付) 計測位置によって結果が変わる場合がある | 配電盤内の動力線(非接触・遠隔) 誰が計測しても同じデータが得られる |
| 設置・維持管理 | 現場での作業が必要(足場や防爆対応が必要な場合も) 電池交換や設置環境によってはセンサ劣化への対応が必要 | 電気室での作業のみで完結 基本的に計測機自体のメンテナンスは不要 |
| 得意な領域 | 機械的な動作不良や、部品の物理的な損傷(アンバランス,ミスアライメント,軸受の異常など) | モータの電気的異常(ロータバーの破断・クラック、固定子巻線の異常) プロセスの異常(負荷変動)(ポンプのキャビテーション,詰まりなど) 一部を除く機械的な異常(アンバランス,ミスアライメントなど) |
| 苦手な領域 | モータ内部の電気的異常 微小な負荷変動 低速回転の機械,インバータ駆動機,往復運動機械 | 初期段階のベアリング異常 高速回転の機械(10,000rpm以上) |
| 外部ノイズの影響 | 周辺機器の振動を拾いやすい | 電気的なノイズ対策をすれば影響は少ない |
| 診断の取り組みやすさ | 広く普及しており、技術者や関連情報の入手が容易で比較的、自分たちでも取り組みやすい | 普及途上であるため、診断にはメーカーのサポートが必要なケースが多い |
まとめ 現場の課題に合わせた「使い分け」のポイント
どちらの手法が優れているというわけではなく、適材適所で使い分けることが重要です。
- 振動診断が向いているケース:
- 人が容易にアクセスでき、直接センサーを取り付けられる安全な環境にある設備。
- 軸受の精密な摩耗状況など機械的な故障・劣化をピンポイントで管理したい場合。
- 電流診断が向いているケース
- 水中・高所・危険エリアなど振動センサの設置が困難な環境にある設備。
- 手軽にモータ内部や電気的な異常も含めて全般的に管理したい場合。
- 既存の設備を大掛かりな工事なしに、後付けで素早くIoT化・常時監視化したい場合。
- 振動診断では異常を検知しにくい低速回転の攪拌機やロール機の管理を行いたい場合。
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